キャリーケース

 きのうは仕事が早く終わった。

 家に帰ると、玄関前に少し大きめの箱が届いている。

「明日、キャリーケース来るから。佐川さんみたい」

 カミサンが昨日、そんな事を言っていたのを思い出した。

 持ち上げてみると、思っていた以上に軽い。箱には商品の色を示すカラーのマークがあり、カミサンの好きな薄緑のラベルが確認できた。

 彼女が友人との旅行の打ち合わせから帰ってきて、箱を開封したので見せてもらった。

 いやいや、時代を感じずにはいられないとはこのことだ。たかがキャリーケースなのに、恐ろしいほどに時代の流れを感じてしまうことになった。

 今の人たちが、推し活や旅行、はたまた入院する病院など、どこに行くにもこのキャリーケースを持っている理由がうなずけた。

 中身へのアクセスは、二つに開いて、箱の半分ずつのスペースが必要なのかと思いきや、箱の一番面積の広い面がファスナーで開くようになっている。もちろん施錠できる。

 これなら、場所を取ることなく、中の持ち物にアクセスできる。

 箱の反対側、持ち運ぶ際に自分達に向く方には、なんとスマホの充電の端子があり、ここから箱の中でコードを伝って、モバイルバッテリーを収納できるようになっている。

 更に同じ側には、樹脂製のドリンクホルダーが折りたたまれ、収納されている。開くと、ジョージアの缶コーヒーではなく、スタバのなんちゃらチーノなどが収納できるようなサイズのドリンクホルダーが現れた。

 大きさは機内持ち込みサイズ。マチがあり、荷物が多いときには4cmほど、厚くできる。

 見ているだけで楽しくなり、旅行気分になれる。

 今まで、駅でゴロゴロと転がされているキャリーケースをさんざんけなしてきた自分が情けなくなった。

 私が高校時代の友人4人でハワイに行ってから既に32年。

 新婚旅行でニューカレドニアに行ってから24年が経過している。

 時は流れ、皆スマホを持ち歩くようになり、飲み物はジョージアの缶コーヒーから、各種ペットボトルやスタバのフラペチーノへと変貌した。

 歳を取るわけだ。

 嬉しそうにあれやこれやを説明してくれるカミサンを見ていると、こちらまで幸せになってくる。

「ひろしも使ってね。めんめっつのところへ行くとき、使っていいからね」

 めんめっつとは、最近数十年ぶりに再開した、東京の地元の同級生。Wikiにも載っているような某界隈のシニアディレクターだけれど、私とは同級生で、先日会った際にまた会おうと約束した。

 もう先が短いので、カミサンも私も、無理してでも好きなことをやろうと思っている。

 だけど、先立つものがじゅうぶんにないのが困った現実。

 まあいいや、何とかなるでしょ。