自宅倉庫の奥に、ホワイトガソリンが眠っている。
20年以上前、こちらへ来たときに、キャンプ道具一式を買い揃えてキャンプをしていた時期がある。
今では燃料と言えば、コールマンでさえカセットタイプが主流のようだが、当時はまだホワイトガソリンが全盛だった。調理をするツーバーナー、灯りを取るランタンなど、ほぼすべてをこのホワイトガソリンで賄っていた。
最近、このガソリンが気になって仕方なかった。でも、なかなか行動に移すことができなかった。
ガソリンを適当に処分することは危険である。ゴミとして出せるものではなく、かつて使っていた道具で使い切るしか方法はない。
その道具であるツーバーナーは借りている骨董品満載のコンテナ倉庫の中にあって、これを取り出すにはコンテナ倉庫の中をひっくり返さなければならない。大仕事なのである。
しかし、心も身体も余裕があるのは今、今しかないと思い立ち、昨日重い腰を上げてこの作業にかかった。
何年ぶりだろう。コンテナ倉庫の中を見てみると、かつて行っていたアフィリエイトの商品サンプルなどが出てきた。これらはもう必要ないので、処分しながら、また、商品発送の際に使うかななんて思って取り置きしておいた段ボールや緩衝材なども、勇気を出して処分した。
コールマンのツーバーナーは一番奥だったかな、なんて思いながら進めていくと、4分の1位の所でツーバーナーが出てきてくれた。よかった。
家に帰って箱の中からツーバーナーを取り出すと、ボディーも赤い燃料タンクも結構錆びている。でも、燃料の圧縮には影響なさそうだ。
家の倉庫の中からホワイトガソリンを取り出したのはよかったのだが、これをタンクに入れるのはどうしていたっけ?ということになった。
専用のじょうごみたいなのがあったような気がして探していると、燃料缶のネジに差し込んで押し出して使う専用の道具が出てきた。ああ、こんなのもあったよなと、懐かしさが込み上げてくる。
この道具を使ってツーバーナーに燃料を入れ、ポンピング。「手でできなくなるまで」なんて何かに書いてあったような気もしたけれど、そんな元気はもうない。適当な所でやめて、線香用のライターで着火すると、見事にツーバーナーが息を吹き返した。
このツーバーナーやPeak1というストーブを使って、いろいろな所でお湯を沸かしたり料理をしたりしたよな、と、昔のことを思い出す。
富士山の下の方で、一人で意味もなくカレーを作ったり、極寒のスキー場で寝ぼけた頭で沸かす朝のコーヒーなど、燃料を入れてポンピングするというこの二つの動作は、やはり私の中で大きな位置を占めているのである。
今は危険防止の観点からだとは思うが、カセットが主流になっているようだ。カセットではこのような強烈な記憶にはならなかっただろう。
もちろん、当初車で屋久島に行った時も、これらの道具は大活躍した。私は殆ど店で食事をしなかった事から、ほぼすべての食事を、このツーバーナーやPeak1、はたまた簡易な焚き火の道具ババチなどを使って行っていたのだと思う。こんなになってしまった今でさえも、状況が許すならヨットを買って、アメリカまで行きたいなんて思うこともある。一人で寂しいだろうなとか、食事は大丈夫かなとか、そんなことはこれっぽっちも思わない。仏になりたい願望と少し似ている。
残っていたホワイトガソリンはコップで二杯ほどだったろうか。少々漏らしながらも赤いタンクに入れ、ポンピング後点火し、その後も様子を見ながらすべての燃料を処分することができた。
このツーバーナーが再び活躍する事があるだろうか。
おそらくもうないだろう。
懐かしくもあり、寂しくもある、ホワイトガソリンの物語なのであった。




