
手術室に入り、ベッドに横になる。
前日に手術のオリエンテーションをしてくれた看護師さんが、点滴の針を打ってくれる。
実はこれが鬼門で、私はさんざん前もって申告をしておいた。
看護師さんは、何事もない感じで、私の左腕から点滴をとってくれる。
とても上手い。
「はい、終わりましたよ」
その声に安心して、
「それ、鬼門だったんですよ。よかった」
と、つい口に出してしまうと、手術室内に笑いが起きる。
「実は緊張していたんですよ。ポーカーフェイスでご負担かけないようにって…」
そうだったのか、申し訳ないことをしたな、と思った。
次は麻酔科の看護師さん。
「はじめに麻酔じゃないお薬が入りますよ」
「はい」
はじめは何ともなかったが、次第に身体が反応してしまう。
「大丈夫ですか?」
あまり大丈夫じゃない。
「ダイジョブです」
でも、こう言うしかなかった。
「血圧が下がってますね」
麻酔科の看護師さんがそう言ったかと思うと、身体に接続された機械のアラームが鳴りはじめる。画面の数値が赤くなって、点滅しているのが見えた。
「死なないでくださいね~」
この台詞はうるおぼえだが、突拍子もない事を言われたような気がする。
カミサンも全身麻酔をする際、薬が効いてきたかを確認する際、お医者さんが面白いことを言って来たんだと言っていた。彼女の場合は、「お酒強いの?」だった。
そして、意識がなくなった。
「手術、終わりましたよ」
気がつけば、手術は終わっていた。
病室内で使っていたベッドに移され、担当の看護師さんが迎えに来てくれた。
こんな風に、いろいろと病院内も分業になっているのだなと思った。
病室内に戻り、部屋で過ごす。
同じ部屋のおじいさんの呻き声が大きく気になり、あまり環境がよくない。
でも仕方ない。病院の相部屋なんて、こんなもんだろう。
一泊12,000円の個室なんか、入れるわけない。
手術は9時からで、予定通り11時半位に終わった。
「全て予定通りでした」
ドクターがそう言ってくれたので、とても安心した。
その後、午後からは、痛み止めや傷口の可能止めの抗生剤などを点滴しながら過ごした。
三本の歯を抜歯し、歯の奥に溜まった膿を出し、膿から頬へと通じていた道を切除してもらった。
術後は、それ相応の痛みはあったものの、すこぶる順調で、こんな風にしてこれを書き始めることができている。
ドクターは、今日にでも退院許可を出せる状況だけど、念のために、予定通り、抗生剤の点滴を打って、あと2日、暇でしょうけれど、がんばって過ごしてください、と言ってくれた。
外来患者の来ない大病院の土曜日、秋の日差しも気持ちよく、おいしい食事もいただけて、とても静かな環境で過ごすことができている。これは図書館以上、頭脳労働には最高の環境だろう。
こんなこと、一生に一度あるかないかだろう。
これでも書きながら、ゆっくりして、気分転換しようと思っている。