母と姉と

 21日は、口腔外科の通院だった。

 少し骨のような物が出てきている感じとか、口の中にヒダのようなものができているような若干の違和感はあるものの、自分としては全く問題のない感じだ。

 ドクターに診てもらったところ、術後の状況に全く問題はなく、次回、手術から半年後の4月にレントゲンを撮って、それで異常がなければ終了にしましょう、とのことだった。

 当初は、ちょっと出てきているような骨が気になって、これを削ってもらおうかとも思ったのだが、歯を入れる考えがなければそのままでいいようなので、もう手術を段取りするのも面倒くさいし、抜いた反対側の歯で充分に噛むことはできるし、その後歯医者に通うことも、考えただけで面倒臭くなってしまったので、このままでいいやという結論になった。
 
 とりあえず、私の身体は大丈夫だ。

 そして母。

 手術が終わって、次に行くところに関して、なのである。

 カミサンの時は直接私がやっていたのだけれど、今回は姉に任せているので、その点がちょっと今までとは違う。

 次に行くところを探してくれる、というものの、それがどこなのかがハッキリしない。第一、母がどのような状況なのかもわからない。母は電話を持っていないし、電話をしてくるような人ではない。

 姉に任せるつもりではいたものの、性分からか自分で確認したくなってしまい、病院への電話を試みた。金曜日だったか。

 受付代表電話経由で看護師に繋いでもらい、状況を聞いた。

 看護師さん曰く、尿の管がまだ入っている、監視下ではあるが、平行棒で歩いている、体重をかけて歩くことができている、あまりやる気がない、いつまでここにいるかは、次に行くところがどうなるかによるので、看護師の範疇ではない。これについては担当がいるので、そちらへ聞いて下さい、と、突然の電話に困惑したようではあったものの、内容はしっかりと淡々と話してくれた。

 すぐそばにソーシャルワーカーがいたようで、繋いでくれた。ラッキーだった。

 次に行くところは、ロウケンシセツをあたっています、とのことだった。何だかよくわからなかったが、探してくれているということで安心して、とりあえず電話を切った。ロウケンシセツというのは、介護保険で入ることのできるリハビリの施設だとも教えてくれた。

 トレーラーを運転しながら考えていた。

 次に行くのは、リハビリ施設なのか。病院じゃないのか。実は病院に行けるんじゃないか。病院の方が健康保険で入ることができるし、いいんじゃないか。病院と介護のリハビリ施設の間では、マージンのバック等、何らかのやり取りがあるんじゃないか、健康保険で入れるんだから、病院の方がいいだろう、などなど、考えれば考えるほど、イライラとしてきた。

 地域の包括支援センターというところの相談員さんに電話をしてみた。

 次に行くところの選択肢としては、回復期のリハビリ病院と、老健施設という、介護保険で入ることのできるリハビリ施設があります、と教えてくれた。私が、ロウケンシセツを勧められたんですが、病院を主張してもいいんでしょうか、と聞くと、それは家族の希望ということで構わないと思いますよ、とのお返事だった。

 相談員さんは、ひとつ、近くの病院を教えてくれた。ここに入れてもらおうと、私が直接電話をしてみた。しかし、わかってはいたものの、私がこんなことを主張した所で、母がここに入れるはずはなかった。今入っている病院にソーシャルワーカーさんがいるので、そちらから様々なデータをいただいた上での検討になります、混んでもいますし、とのことだった。玉砕歓迎、やることをやらねば気が済まない。

 病院のソーシャルワーカーに電話をする。

 13時半。他の電話の対応中なので、少し時間を置いてお掛け直し下さい。15時半。他の電話の対応中なので、少し時間を置いてお掛け直し下さい。17時位までです。16時半。他の電話の対応中なので、少し時間を置いてお掛け直しいただけますか?

 3回掛けているので、今回はお言付けをお願いします。老健施設ではなく、回復期のリハビリ病院を希望しますと伝えて下さい。と、女性に伝えると、少しして折り返しがかかってきた。

 最初お父様とお姉さんとお話をした際にも申し上げたのですが、お母様の様子や年齢、状況を総合的に判断して、このようなご案内になっています。お母様は少し痴呆もあるようですし、年齢的なこともありますし、リハビリを頑張ろうという積極的な気持ちがあまり感じられないということもあります。お母様の状態が回復期リハビリ病院をご紹介するような状況ではないということです。ご紹介する資格がないと言いますか… 病院でバリバリとリハビリというのではなく、施設でご自身のペースでされるのが最適だろう、という私どもの判断です。ということですので、今回は老健施設へのご案内となっています。

 主張がある際の折り返しは早い。

 一回目の電話でこのように対応してくれればよかったのに、と思うも、腹を立てても仕方ないので、大人の対応をする。

 しかし、説得力はある。

 一方で、冷静になって考えてみると、丸め込まれている感も否めない。

 私が直接、はじめから対応している訳ではなく、父と姉とが次に行くところの話を聞いているので、今回は回復期リハビリ病院への転院を、これ以上主張するのはやめた。

 同じ電話で、問い合わせをして連絡待ちだった次の老健施設から「入所できます」との連絡があったので、連絡を取って欲しい。面談の予定を段取りし、面談の日にちがわかったらその日にちを連絡して欲しい、とのお願いもされた。地元駅から歩いて10分ほどの施設だった。電話番号と担当者の名前を聞いたのだけれど、面談日の予定が決まったら連絡が欲しいと念を押すところなど、動物的に何かある感を感じずにはいられなかったが、ここも大人の対応で何とか乗り切った。

 姉に連絡する前に、またもや私が電話をしてみた。

 担当者は不在。折り返します。急ぎますか?と言われたので、いいえ、急ぎませんと言って折り返しを待つ。

 会社に帰り、トレーラーを車庫に納めたところで担当者から電話がかかってきた。折り返しの電話が遅くなってしまい、申し訳ございません、と、聡明そうな、聞いた感じ30歳位の感じの良い女性だった。これだけでも、ここでもいいかなという感じになる。第一印象は大切だ。

 家族としては家に帰してあげたいと考えています、いう希望を伝えた。実際には母と話をしていないので、実は母の希望はわからないのだが、私たちの憶測で話を進めてしまった。月にかかる費用は184,000円。高いじゃないの。原則3ヶ月で、状況によっては条件付きの延長も可能。あくまでもロウケンシセツなので、終の住処にはならないです、とのこと。おおまかに内容を聞いたあとで、私はちょっと離れたところに住んでいるので、実際の説明を受けるのは姉ですごめんなさい、姉から連絡させますので、よろしくお願いします、と言って、電話を切った。

 すぐに姉に電話をすると、姉はその日のうちに電話をしてくれた。来週30日に説明を聞きに行くことになった。

 おそらく母は、しばらくの間ここにお世話になることになると思う。

 家に帰って、カミサンと話をした。

 お義母さんの希望通りにしてあげた方がいいよ、と助言を受けた。

 母は今89歳。家に帰って90歳のオヤジと暮らすとなれば、オヤジは再び母のことを頼って、あれやこれやと言い出すに違いない。果たしてそれが母のためなのか。もおしかすると母は、面倒くさいオヤジからはもう、離れたいのかもしれない。

 私たちは母の状態が回復し、家に帰る事を大前提に進めてきてしまったが、もしかするとそれは、母の希望ではないのかもしれない。リハビリが適当なのにも、意味があったのかもしれない。

 実家に帰った際、母とカミサンとは、よく話をしている。その中で、オヤジがわがままでもう嫌だ、人生なんかどうでもいい、というような事も聞いたことがある。母には愚痴をこぼす友人も、知人もいない。娘には話さない本音を、カミサンは上手く聞き出してくれていて、そのこと、母の心からの本音を、カミサンはよく知っている。

 この親不孝息子には果たして何ができるのだろうか。

 母の本音を私なりにも何とか聞き出し、希望通りの環境を整えてあげることだろうか。

 先ほど、えきねっとで、新幹線を予約した。

 2月23日、一人で実家に行こうと思う。