緩和ケア 鎮静 ターミナルセデーション 体験記

 今日は義父が入所している介護施設でお願いしている医者の往診日。

 鬼門だった。

 義父は痴呆から、訳のわからないことをいろいろと言い出し、しまいには介護士さんや看護師さんにセクハラをするようになってしまった。

 介護施設の施設長からは、状況によって、このままではお預かりするのが難しくなるかもしれません、とも言われていた。

 この医者の判断と処方で、全てが決まる状況だ。

 こちらのお医者さんは、大きな病院に勤務する一方、訪問介護を行っている。義父の入院時からの流れで、こちらにお世話になることになった。

 一方施設側は、入所した時の状況から大きな変化がある。

 私たちが契約した、ローカルに根付いた、口コミの良い、暮らしやすくて価格も良心的だと言われていた施設は、大きな資本に乗っ取られるような形で名前を変えてしまった。大変お世話になった当時の施設長は退職してしまった。

 今の新しい施設では、介護や連絡してくる内容も、それに伴って微妙に変化している。入所者とその家族としては、あまりよくない傾向だ。

 いつ医者から連絡があるのか、正直びくびくしていた。

 そして、その内容も。

 医者からは11時頃、介護施設の看護師さん経由で連絡があった。

 現在の義父はかなり苦しそうで、また、いろいろと訳のわからない発言なども散見されているので、これらを取り除き、痛みを和らげるのを大前提に、「緩和ケア」をしていきたいと思います、とのことだった。

 助かった。

 彼を楽にしてあげるために、薬を処方してくれるんですよね、と私が確認すると、その通りですとの返事だった。

 この内容は、こちらの訪問医療を受ける際に、実際にこちらのお医者さんと向き合って話し合いをして契約した事柄なので、家族としては全く問題はない。これ以外の提案があったなら、むしろ私たちはこちらの施設を追い出されることになり、困り果ててしまう所だった。

 早速妻にラインで知らせた。

 家に帰ると、妻はとても安心していた。

 私も同じだ。

 でも、落ち着いて考えてみると、施設側からの言い分は何なんだろうと思う。

 確かに迷惑をかけているかもしれないが、彼は寝たきりの要介護5だ。

 手を出したとしても、避けることはできるだろうし、男性の介護士さんにお願いすることもできるはずだ。言い訳なのか、全ての状況を男性に任せるシフトは難しいと施設長は言っていたけれど。

 この辺りは、おそらく何か、大人の事情があるのかもしれない。私も筆を尖らせて書きたいのはやまやまなのだけれど、敢えて今回はこの程度にしておく。

 ということで、あまり深く考えずに、今回の結果を受け入れることにした。

 妻は心から喜んでいた。もちろん、私も同じだ。

 この義父に踊らされること数年間、私たちは子供として一生懸命にやるべきことをやって来た。電話はいつも通じるようにしていたし、医者や病院や介護施設から言われる手続きも、口答えせず、できる限りスムーズに行うようにしてきた。

 しかし、内容によっては、これはかなりの苦痛を伴うものだった。

 それらの悩みから、もう少しで解放されるのだ。

 「緩和ケア」

 優しい言葉に聞こえるけれど、実はものすごい破壊力を持っている言葉なのだった。