バッテリー上り

 今日、いつも通りトラックの鍵を開け、乗り込もうとすると、トラックの中の様子がいつもと違うことに気が付いた。

 ブレーキペダルが点検用のハンマーで固定されており、ストップランプが点灯するようになっている。

 ああ、やってしまった…

 一昨日、久しぶりの仕事だったので、業務終了後にストップランプの点検、ブレーキ操作がされているように点検ハンマーでブレーキペダルを固定して、ストップランプが点灯するかどうか、ストップランプの球が切れていないかを点検した。

 点検したのはよかったのだが、途中で病気をおして仕事に行った同僚が帰ってきたので心配になり、そちらに行ってしまった。

 最後に鍵を抜きにもう一度自分のトラックに戻ったのだが、点検用のハンマーをブレーキに固定している事を忘れて、鍵を抜いて、施錠してしまった。

 昨日の祝日、天皇誕生日が一日あったので、バッテリーがすっからかんになってしまった。ブレーキ操作をすると、トラクタ、ヘッド部分のストップランプと、トレーラー、台車のストップランプも点灯させるようになるので、結構電気を使う。

 一応運転席に座って、いつも通りエンジンをかけてみるが、うんともすんとも言わない。当たり前である。

 幸いにも今日は出発までに時間があったし、現場での仕事もスタート時間が遅い予定だったので余裕があった。

 まだ誰もいない工場の中に、このようになってしまった時に使うバッテリーがある。台車に二つ、大きなバッテリーが乗っており、これとジャンピング用のケーブルを持ってトラックの所まで持っていく。

 トラック用の道具なので、ジャンピングケーブルはかなり太くて長い。それなりの抵抗もあるだろうけれど、乗用車のようにバッテリー同士を近づけるのは、大型車の場合は難しいので、ケーブルは結構長い。

 慌てないように自分に言いきかせながら、極めて冷静に、作業を行う。
 
 早速このバッテリーを繋いでスターターを回してみたが、電圧だか電力だかが足りないようで、セルの音が少ししただけでエンジンはかからなかった。

 自分の車のランクルで同じような状態に何度もなっているので、大体の感じはわかる。まだ2日目なので、もうちょっと電気の力があればかかりそうだ。

 こうなると、他のトラックを持って来なければならない。会社の中にはいろいろなトラックがあるが、いちいち鍵を探してトラックを引っ張り出して来るのは、それなりに手間がかかるので面倒臭い。

 これしか方法がなければ、諦めてそうするのだが、実はもう一つ、奥の手がある。今までやったことがないが、これが一番簡単で確実かもしれない。

 その方法は私にしかできない、秘密の方法である。

 トラックにはバッテリーが二つ搭載されており、殆どのトラックが24ボルト仕様となっている。実は私のランクルヨンマルも同じ仕様なのだ。

 私の車をここまで持ってきてジャンピングコードを繋いであげれば、おそらくかかるだろう、ということで、ランクルの登場である。

 従業員用駐車場に納めた愛車を、仕事用のトラックの所まで持ってきて、ジャンピングコードを繋いでみる。結構電力を必要とするだろうから、回転数をそれなりに上げて、いざチャレンジである。

 一回目、トラックのインパネ廻りの計器類は、それなりに明るく光っている。すっからかんの空っぽでもないようだ。セルモーターを回してみると、ちょっとしか回らない。まだまだ電気が足りない。

 二回目、三回目も同様で、回を重ねる毎にセルモーターの回りがよくなってきた感じがある。電気を溜めるのに少し時間が必要なのだろうと、ランクルのエンジン回転数を上げたまま、普段書く日報を書いたりして10分ほどそのままにした後、満を持して、セルモーターを回してみた。

 やった、ランクルの電気で、トラックのエンジンがかかった。

 出発は遅かったので、会社の同僚もいなかったが、結構な達成感があった。

 ランクルは回転数を上げたままの数分で、最近の病気である冷却水漏れを起こしてしまったので、少し場所を移動して、漏れてしまったLLCをウエスで拭き取った。この液体は結構な毒で、万が一にでも猫が舐めてしまったら死んでしまうのだ。

 しばらくエンジンをかけたままにして、一度止めて、再始動ができるかを試してから出発したかったのだが、偉い人が出社してきて、会社の中が少しばかりざわついてきたので、おかしな動きをすると目立ってしまうと思い、そのまま出発した。

 今日の仕事の現場は、アイドリングストップにそれ程うるさくないので、今もこの時に始動したそのまま、エンジンをかけっぱなしにしてある。半日でもかけておけば、再始動しないということはないだろうし、デフロスターやワイパー、サイドミラーの熱線や暖房の風などの装備を使わないようにすれば、一日でそれなりに復活してくれるだろう。

 この先、万が一にも電気自動車がスタンダードになったとすれば、このような電気切れがあっちこっちでしょっちゅう発生することが予想される。

 バッテリーは寒さに弱く、ある地点を越えた時点で、考えられない程急激に弱くなる、使えない状態になってしまうという特性を持っている。

 液体の燃料ならそんなことはないのだが、やはり電気は、扱いが難しい面がまだまだあると思う。

 こんな風に、ふとした事で電気がリークしてしまうことだって予想される。

 トヨタの社長が代わり、方針が少し変わるようだ。個人的には、内燃機関がなくならないで欲しいと祈るばかりである。

 その後、朝の7時から夕方の5時過ぎまでエンジンをかけっぱなしにして運行してみたところ、バッテリーは何とか復活してくれたようだ。朝は気が気ではなかったが、どうにか復活できた。何かが起こってしまった際には、慌てないで落ち着いて処理するのがコツであるなと、改めて思いを新たにした今日、2月25日であった。