無印良品の菓子型

 土曜日、二人とも休みだった。

 カミサンは、義父が家から永遠にいなくなるということで、家のあっちこっちを片付けはじめている。

 彼女が台所の流しの上の収納を片付けていたところに、私が通りかかった。

「ちょっとあの箱、届かないから取ってくれる?」
「はいよ」
 
 私が手を伸ばして取り出したのは、何年も前に無印良品で買った猫の菓子型。

 シリコンでできており、その中へチョコレートやお菓子の材料を流し込んで使うというもの。当時の我が家にはねこの「にゃんちゃん」がいたし、今も我が家はねこ好きなので、このようにねこをあしらった物があっちこっちにある。

「捨てちゃうのも忍びないし、どうしようかな?」
「ちょっと見せて」

「いいかな?」
「いいよ、売って他の人に使ってもらえるなら」

 私の動作や目つきで、カミサンは私が何をしようとしていたのかがわかったようだ。

 今はあまり活動していないけれど、私はあっちこっちのプラットフォームに、物販のアカウントを持っている。

 一番高く売れるのはヤフオクだろうが、ヤフオクは出品が面倒臭い。

 簡単に売れて、出品も簡単なのはメルカリだが、メルカリは基本的に送料が出品者負担なので、利益はそれ程出ない。

 でも、大きく儲けようと思っているわけではないし、簡単に売れた方がいいだろうし、出品も配送も簡単な方がいいと判断して、メルカリのShopsに出品した。

 問題は価格だ。

 履歴を見てみると、定価1000円のこの商品は、今までに15個ほどが定価以下の価格設定で販売されていた。儲けるという頭はそれ程なかったので、定価から15%程落として、送料無料で出品した。

 まさかとは思ったが、出品すると瞬殺だった。おまけに入荷したら知らせて下さいというリクエストまで来た。やはりスマホはすごい。

 せっかく買っていただいたのだから、誠心誠意取り組もうということで、即梱包し、クロネコヤマトの営業所まで持っていった。匿名配送、ネコポスに何とか収まり、送料は210円だった。改めてシステムの進化に驚く。

 その後よくよく調べてみると、この商品は絶版で入手困難なのだそう。他のサイトを見ると3000円程度で販売されている物もあったが、売れてはいなかった。

 価格を突っ張って、相場だと言い張って、高値を付けるのは簡単だ。でも、売れなければ仕方がない。

 今回も、もっと儲けを取れたのではないかと販売した日の夜は後悔して、寝付きが少し悪かったが、カミサンに話すと、
 「売れたんだからいいじゃない。次の人が使ってくれるんだからいいよ。考えてると身体によくないから、もう考えない方がいいよ。仕方ないさ」
 と、慰めてくれた。

 私は転売屋、転売ヤーの側面も持っているが、これは売れるな、などと考えるのは好きだけれど、いざ高値で自分が販売するとなると、やはりどうしてもどこかで気がひけてしまう。

 基本的にメルカリは不用品の個人売買というコンセプトのプラットフォームなので、あまり大きな利益を得ようとする事自体が間違っているのかもしれない。

 やはり利益を追求するなら、面倒くさいを克服して、ヤフオクにするべきなのだ。

 昨日夜、管理画面を見てみると、購入者さまからメッセージが届いていた。無事につきました、と、最速でお届けできた事への感謝が述べられていて、これだけでもやっている価値はあるのだ。

 私の中では今でも、物販をどのようにして行こうか、挑戦が続いている。

 私はやっぱり、大きな利益を追求するよりも、人と人との繋がりを大事にしたいと思っている。

 これは、屋久島でとびうおをお裾分けしていた頃からの想いである。

 ちなみに今回の利益は555円。

 やっぱり私はこの仕事には向いていないのかもしれない。