田植え

 あっちこちの道に土が落ちている。

 ダンプカーが落としたものだと、すぐに通報されたりするのだが、この土は絶対にそんなことはない土だ。
 
 建設現場に持って行く土と、田んぼの中の土とでは、どうやら待遇が違うようだ。

 田植えの季節になった。

 今日も朝の6時前に出勤しているが、出勤途中にトレーラーを繋ぎ、田植機を運んでいるトラクターを見た。

 私の住んでいる所は、全国でも有数の米どころ。

 しかも、その中でも、ここ数日は穀倉地帯を走り抜ける仕事をさせてもらっている。

 耕されたあと、しばらくすると、田んぼに水が張られる。

 そして、田植機で、米の稲が植えられる。

 もう見慣れてしまった風景だけれど、おそらく都会の人たちが見れば癒されると思う。私も始めの頃はそうだった。

 田んぼを耕すと、そこには鳥が寄ってくる。サギ系の白いヤツが多い。

 土の中に住んでいて、掘り起こされるミミズなどの生物を狙っているのだ。

 水が張られた田んぼは、鏡のように美しい。

 そこに稲が植えられると、これもまた、何とも言えない風景になる。

 そして、これまた不思議なのだが、田植えが終わると、どこからきたのだか、カエルが鳴き始める。

 カエルの子供はおたまじゃくしのはずだが、今までどこにいたのだろう?

 今は機械化が進み、農薬も使用されているので、昔とはいろいろな面で違いがある。

 かつてはこの作業を、全て手作業でやっていたのだ。

 機械がないならないなりに作業していたのだろうけれど、昔の農家は大変だったということを、身をもって感じる。

 何を隠そう、私のカミサンの母方の実家も、今住んでいる地域における有数の農家である。

 跡継ぎだった義母の弟さんは、過酷な労働のせいなのか数年前に亡くなってしまった。

 数百年にわたり、代々続いてきていた農家は、今、途絶えつつある。

 カミサンの従妹にあたる弟さんの息子さんは、はなから農業に関心がなく、今でも家を出てサラリーマンを押し通している。

 
 たかが道路に落ちている土だが、この土から、農業が抱えている様々な背景を想像してしまう。

 果たして、日本の未来は明るいのか?

 明るいと言い切れる状況を作り出したいが、温暖化や少子高齢化など、果てしなく規模の大きすぎる問題が立ちはだかって、どうにもならない状況になっているような気がしてならない。