私は12年の間、自動車販売会社にいた。

 6年営業をしてきている。

 営業には目標がある。月に何台売って下さいね、という目標だ。

 上に上がっていくなら、営業所全体の目標があり、中古車部全体としての目標がある。それはディーラーとしての新車の販売目標、更にはメーカーの生産台数まで繋がっている。

 真面目な人は、この目標に対して必死に取り組む。人によって目標に対する考え方や動き方は様々だけれど、大抵は一生懸命にやる。

 私なんかは若い頃から適当だったし、出世欲などなかったし、売れる物は売れる、売れなければ仕方ない、という考えでいたので、目標に対しての取り組みは甘かった。

 私はこのような目標を掲げられる、会社組織というものが、根本的に嫌いなのだ。

 だから、12年間勤めて、退職した。

 自分の意見を持っていると言えば聞こえはいいが、会社にとっては、厄介者だった。

 ビッグモーターにも、様々な所で目標があったようだ。工場の売上げ、保険の獲得率、販売台数、などなど、至る所に目標は設定される。

 これを達成するために、達成しなければ減額されたり給料が下がったりするのを恐れて、不正に走る人がいたのだという。

 私だって、販売目標をクリアするために、適当な注文を私の扱いにする、などという事を、上司がやっていた。こんなことされても嬉しくも何ともないのに、変なことをするなと思っていた。

 目標がなければ、毎日の仕事のやる気が起きない、というような事は確かにある。でも、一生懸命にやって達成できなくて、それに対して制裁が加えられるというようなことは、果たしてどうなのだろう。

 ここの考え方は、人によって多いに違う。

 会社のために必死にやる人もいれば、私みたいな奴もいる。

 今はビックモーターが表に出てきているが、これは何とも難しい問題だ。目標が未達ということで、不正をしたり暴力を振るったり、物を投げつけたりするなどは言語道断だが、このような事とスレスレの状況は、自動車販売会社各社にはある。

 未使用車、ナンバー付きサンプルカー、なんていう車が市場に出てくるのも、元を正せばこの理屈からだ。メーカーが販売会社に割り当てた目標が達成されない分の在庫が、あのような形で市場に出回ることになる。

 私は本社にいたとき、毎朝担当重役がセンター長に、「今は何台だ」「今月もダメなのか、どうするんだ」「査定を取れよ、査定を」「何で見込み客がこんなに少ないんだ」「受注ペースを考えろよ」などというゲキを飛ばしているのを側で聞いてきた。

 私は朝の6時半から会社に来て、ディーラー全体の下取り書類をチェックするという事務を一人でこなしていたのだが、重役は会社の社用車で朝の7時位にやってきて、こんな感じで毎朝現場の長に電話をしていた。

 こんなの嫌だな、と思いながら仕事をしていたが、やはりサラリーマンとはこれを堪え忍んでナンボなのだな、私には無理だな、と思ったものだ。

 今はパワハラなんて言葉も出てきて、昔から比べるなら会社も上司もやりずらくなっているようだが、果たして経済活動の、販売活動の本来のかたちというのは、どういうものなのか、私は未だによくわからないでいる。
 
 だからこうして、不安定な自営業と適当なアルバイトに身を置いているという次第だ。世間から見るなら落第者だろうが、自分的にはこれでいいと満足している。

 とにかく、難しい世の中になってきたな、というのが実感である。