電話が苦手な妻と挑む墓じまいの現実と希望

 カミサンは基本的に電話で話すのが苦手で嫌いだ。

 しかし、自分の父がこのようになってしまったことで、前に進むしかなかった。

 私も手を差し伸べようとはしたものの、やはり電話をするのは、檀家の契約をしている本人、死んでしまった本人の娘でなければならなかった。本人がそれを一番わかっていた。

 まず確認されたのは、骨をこちらに戻せないのか、ということ。骨があれば檀家を辞めなくてもよく、もしお金がないなどの事情があるなら、分割で費用を払うという方法でもいいので、相談して欲しかった、とのことだった。

 檀家を辞めなければならないのであれば、すぐに墓じまいの手続きをしていただくことになるとのこと。それはすなわち墓じまい、まだ何も考えていなかったこの領域に、すぐに取り組まなければならないとのことだった。

 墓の撤去と搬出、処分、諸々の書類関係の手続き… これをすぐにしなければならないとのことだった。

 いずれにせよ、かなりの金額がかかってしまう事が予想された。

 繰り返しになるが、私たちには今現在、お金がない。

 せっかくゆうパックで大阪の業者にお願いし、海洋散骨の段取りをしたのに、もう元へは戻れないというか、戻る気はない。

 となれば選択肢は墓じまい一択。

 私は彼女の電話を聞いてから、とにかく墓自体の撤去、処分してくれる業者を探さなければと思った。

 まずは、葬儀会社のアフターサービスの、アフターサポート部門に問い合わせてみる。しかしここでの回答は、満足の行くものではなかった。

 まず、墓の状況を知りたいので、15キロ程度離れた3つばかり隣の町の事務所に来てもらって、概要をヒアリングし、その後見積もりという流れになるとのこと。

 私は毎日300キロ以上を走らねばならない年末の仕事をこなしながらなので、身体を動かす時間がない。概要だけでも教えてもらえないかと聞くと、おそらく1平方メートルあたり10万から15万程度が相場になるので、おおよその線を考えてみて下さい、とのことだった。おそらく我が家の墓は4平方メートルで、この数字を教えてもらっただけでもサポートは役に立った。まず無理なのだ。

 墓じまいだとこんな価格なのだろうと、今度は何でも承りますという解体業者をあたってみたが、これも見事に値段は合わなかった。お互いの考えている額が遠すぎた。これも仕方ない。

 いろいろと試行錯誤の末、とある業者に辿り着いた。何でも屋さんらしかったのだが、とりあえず電話してみると、実家が石材屋さんで、墓の撤去と処分も可能だという。
 
 電話口の対応がとてもよく、ウマが合いそうな感じがしたので、こちらにお願いしようと思った。もちろん、現地を確認してからでなければ詳しい値段は出せないとのことだったので、二日後に墓に行ってもらうように段取りした。

 翌日、カミサンは住職と連絡を取り、もう骨は戻せないので、墓じまいして、檀家を抜けたい旨を告げた。住職はそれでも骨はどこにあるのか、もう絶対に戻せないのかと聞いてきたが、カミサンは状況を説明して、納得してもらった。

 同時に明日、業者が見積もりに来るという事も告げてきた。

 ここまでスピードを持ってやれば大丈夫だろうとは思ったが、今までもいろいろと大逆転の展開があったので、油断はできなかった。

 カミサンは、もしお墓に出入りの業者さんにお願いするならいくらかかるのかと、金額を聞いてきてくれた。

 ちなみにこちらのお寺では檀家を辞める際の離檀料の設定はないらしく、これも助かった。

 ここまで、本当にお金がない旨を住職にも告げながら、理解してもらいながら進めてきた。カミサンに感謝だった。

 その日の夜、カミサンは気になることがあると私に告げた。

 もしかすると、それはとてもありがたいことになるかもしれない、夢のある話だった。

 続く