花壇を造る

 我が家の入り口には、小さな花壇がある。

 私が芝生を植えたり、ちょっと洒落た草などを通販で買って植えたりしていたスペースだ。

 昨年、通販で買った「ちょっと洒落た草」は大きく成長して、青くて小さくて綺麗な花をつけた。

 しかしその後、バカ、と呼ばれる、人間の服にまとわりつく種を産出するようになり、カミサンから「これはやめてくれない?」と言われ、仕方なく、せっかく根付いた草を他のスペースに植え替えた。通販のカタログでは綺麗な花だったのだが、カミサンに嫌われてしまい、私としてはこの草が可愛そうだった。

 私たち夫婦は今まで義父と同居しており、彼の存在がこの家の中ではとても大きかった。元公務員の義父は存在自体が威圧そのもので、私たちは知らず知らずのうちに、彼の機嫌や動きを気にしながら生活するようになっていた。

 しかし、ついに念願叶って、義父は施設に入居することになった。

 我が家は義父の存在がなくなったことでフリーとなり、カミサンは一番仲の良い友人を自宅に招くようになった。

 カミサンは自宅の植木にも庭木にも花にも殆ど興味を示さない。例えそこに花を植えるスペースがあったとしても、花を買ってきて植えるなどということは、彼女の辞書にはない。

 しかし、彼女の友人は草や花が好きで、自宅で苔玉を作ったりしているらしい。野菜や花を植えたいのだけれど、マンションのベランダに虫が来ると困るので躊躇しているとのことなのだ。

 そんな彼女が私たちの家にやってきて、明日、カミサンと一緒に「ガーデンガーデン」という草や花を売っているお店に行って花を選び、このスペースに植えてくれるのだという。

 今まで私が何気なく植えていたものとは違い、彼女のセンスが現れるだろうから、今から楽しみである。

 この事が決まったときカミサンは、「適当にホームセンターで花を買っておけばいいよね」とか口にしていたので、私は「それはちがうぞ。花壇ってのは、全体的なイメージ作りからはじまるんだろうから、勝手にそこにある与えられた花を植えれば、はい、完成、ってもんじゃなくて、花を自分で選んで、どこにどんな風に植えるかを頭の中でイメージするところからはじめるんだと思うぞ、きっと。だから、花は二人で買いに行った方がいいと思う…」と提案した。

 カミサンは納得するでもなく私の言うことを聞いていたが、聞いたそのまま友人に伝えたところ、大変喜んでくれていたとのことで、少しは私の言葉にも説得力があったのかもしれない。

 しかし、せっかく庭に来てもらうにしては、庭の雑草が多すぎる。これを何とか明日までに綺麗にするか、それともそのままでいいか、これもまた悩むところである。カミサンの友人もきちんとしている人で、先日私が訪問日前にメダカの水槽の掃除をしていたというのを聞いて「わざわざいろいろとやってくれなくてもいいよ。来ずらくなっちゃうからね」なんて言ってくれていたのだが、果たしてどうしようか、今から悩んでいる。

 今日、仕事から帰ったら、簡単に長い草だけ、機械で払っておこう。無理せずに。

 カミサンはその日を迎えるべく、新しいスコップ2つと、かわいい手袋2つ、それらを入れる入れ物を、セリアで買ってきて、玄関の、かつて彫り物の熊がいた所に置いてある。

 こんな風に、小さな事を心から楽しめるということは、とても幸せなことだと思う。