50年以上前の幼少時代、私は母親からこのように教わったので、今まで一度も扇風機を回しながら寝たことはない。
都市伝説と化しているようだが、この話が出てきた70年代、実際に死亡例が何例かあったのだという。
知識の刷り込みとは恐ろしいもので、今でも私は扇風機にあたりながら寝るのが怖いし嫌だし、違和感を感じる。本気で死んでしまうと思っている。
ここ数日、こちら東北地方でも熱帯夜が続いている。昨年の夏まで寝ていた私の部屋には一応、窓掛けタイプのエアコンがあったので、熱帯夜になろうかという時にはこれを作動させて寝ていた。身体がだるくなることもなく、快適に睡眠を取ることができていた。
少し前から、かつて義父が寝ていたベッドで寝るようになったのだが、このベッドには一つだけ難点がある。この部屋にはエアコンがないのである。
どこでも寝ることができるのが自慢の私だったが、ここ一週間位、かなり寝苦しい日々が続いていた。寝てすぐに大量の汗をかき、一時間くらいで目が覚めてしまう。水分を補給してもう一度寝るも、また一時間くらいすると目が覚めてしまう。
寝られるには寝られるのだけれど、何だか疲れも残り気味で、睡眠の質もあまりよくないのかな、という感じがしていた。
もちろん、私の頭の中には、扇風機をかけながら寝る、という選択肢はなかった。本気で死んでしまうと思っているからだ。
カミサンが私の様子を見て言った。
「オヤジの部屋に扇風機が沢山あるから、リモコン付きのヤツでも出してきて、それかけながら寝なよ」
「ん~ 死んでしまうんじゃないかな…」
「私、毎日エアコンかけて扇風機回しながら寝てるけど、ほら、大丈夫だから。死なないからそうしなさい」
「あい」
私は気が進まなかったが、寝苦しいのが解消されるのならいいかなと、カミサンの言うとおりにしてみようと決意した。決意である。死ぬかもしれない物を受け入れるという意味において、決意なのである。
カミサンはよくわかっている。このままでは私は扇風機など出してこないだろうと踏んでいるようで、義父の部屋からリモコン付きの扇風機をごそごそと出してきて、私のベッドの横にセットしてくれた。
私は覚悟を決め、扇風機を回しながら、扇風機の風にあたりながら寝てみた。カミサンの設定済みのスイッチは風量大だったが、怖かったので中に落とし、更に首を振り、タイマーを4時間にセットした。
違和感があったものの、先日までのように一時間で起きてしまうこともなく、良く寝ることができた。死んでしまうこともなかった。
昨日書いたように、鼻が詰まって水のような鼻水が出て、身体も何だかだるいような感じがまだ続いているが、熱は出ていないので大丈夫だ。
天気予報を見ると、まだしばらく熱帯夜が続く。
今日もまた、命をかけ、扇風機を回しながら寝てみようと思う。