新車

 二件お隣りのお宅が、車を新車に買い換えた。

 今までは色つきの、初期型のシエンタだったが、数日前からぴかぴかの真っ白な現行型、新車のシエンタになった。

 こちらのお宅の方は、看護師さんをされている。世代的には私達と同じくらいで、ご両親と同居されている。

 私も少し前まで「いつかは新車に買い換えたい」という思いがあったが、今ではあまり考えなくなってしまった。歳を取ったのだろう。

 新車にすれば、メーカーの保証があるので、数年の間なら故障しても修理費用はかからない。車検だって、一回目は新車登録後から三年後だ。自動車税も任意保険も安い。何より新車は気持ちいい。それに今の車は、アクセルとブレーキの踏み間違え防止装置や前車との衝突を回避する衝突安全装置などがついているので安全性が格段に高まっている。ハイブリッドなら燃費も良く、月々の燃料代はかなり節約できるだろう。また、新車の購入は、一個人で地球温暖化に貢献することができる行為であるとも言えるだろう。

 と、いいことづくめの新車である。

 私だって、車が好きが嵩じて高卒で東京トヨタに就職したくらいなので、新車を買うことができるのであれば、今すぐにでも買いたい。でも、50半ばにして、収入が手取りで20万円もないようなアルバイトの状況では、とても新しい車などを買うことはできない。あっちこっちが壊れたり、税金が高かったり、燃費もハイブリッドには到底及ばなかったり、不経済なのはわかっているものの、今所有している二台の車を維持するだけで精一杯である。

 どうしてみんな、いい車の新車に乗ることができているのかと、真剣に考えた事がある。世の中、かつてのバブルのように経済が回っているようにも思えないし、景気のいい話はあまり聞かない中で、道路には新しいモデルの車が結構走っている。

 そんな中で一つわかったことは、今の人たちは新車を買うのではなく、リースで乗るという選択があるということだった。ガソリンスタンドなどにものぼりが立っているのはわかっていたが、いかんせん、40年前にトヨタのディーラーに就職した身としては、これらのシステムはなかなか受け入れられないもので、見る気にもなれなかった。

 しかし、時代は変化している。

 例えば、今回トヨタが発売した電気自動車は、トヨタの関連会社が運営するリース会社が提供している、サブスクリプションシステム経由でなければ、買うこと、正式には乗ることができない仕組みになっている。

 このリースも進化していて今は任意保険や車検の費用、タイヤやオイルやバッテリーなど、消耗品の交換費用、毎年かかる自動車税にいたるまで、全てが込みでリースになっているようだ。プランによっては頭金なども入れずに新車に乗ることができたり、中途の解約でも思ったよりも手数料がかからないなど、リースの仕組みも進化しているようだ。

 私も、と、思ってはみたものの、「このリース」を利用するにあたっては所定の審査がある。おそらく、今の状況ではパスできないので、無理だろう。

 一方で、若い世代の方には、自分で契約すると高額になりがちな任意保険がセットになっているし、安定した仕事についているなら審査に受かる可能性が高いだろうから、「この仕組み」を使って、常に新しい車に乗るというカーライフ、ライススタイルも夢ではないと思う。

 電気自動車が出てくれば、これから車の所有の形態も変わってくると思う。果たしてこの先、自家用車を取り巻く状況はどうなるのか、私自身は、所有とまではいかないまでも、この先の進化を最後まで見届けることができるのか、今から楽しみでもあると同時に、エンジン搭載の車に乗れなくなってしまう流れは、かなりの寂しさを感じている。