90歳の父とお金のやり取りに悩む日常 - 親子の葛藤と団地の現実

 「カネ送るからよ、どうすればいいんだ?」

 昨日夜もまた、オヤジから電話がかかってきた。

 息子が病気になり、10万円を貸してくれ、今じゃなくてもいい、あとで連絡するから、なんて話になってしまったので、気が気でないらしい。

 まあ、気持ちはわかる。オヤジの息子だから。

 当初は現金書留で送ると言っていたが、今現在、実家の団地の商店街には郵便局があり、年金受け取りなどもこの郵便局で行っているようだ。

「郵便局を使えば楽なんじゃないかな」

 私は提案した。

 双方の記号番号を交換したのだが、このような事をするのも、90を超えたオヤジには大仕事。通帳を取りに行ったり、メモを探したり、書くものを準備したり、それだけでも一仕事のようだった。

 いつもと違うおかしな動きをしているのか、裏で母の「何してるの?」という声が聞こえる。「ひろしの用事でさ、かあさんはもう寝なよ。眠いだろ」なんて言っているのが聞こえた。

 「たぶん、明日送るからよ」

 「毎月3千円でも5千円でも送ってくれればいいからな」

 オヤジはそう念を押すと、電話を切った。

 しばらくしてから二階に上がり、パソコンに向かっていると、再び電話がかかってきた。かなり大きな声になっている。

 先ほどは母がそばにいたので、あまり話せなかったらしいが、築50年以上の団地に住む父と母にも、やはりいろいろなことがあるらしい。

 父は母のことを、ボケてきて、自己主張が強くて困る、と言う。

 母は父のことを、ボケてきて、変なことばかり言い怖い、と言う。

 また、団地には建て替えの案件が持ち上がっており、論議がされているらしい。

 全員一致でなければならないこの案件は、高度成長期に建築された数々のニュータウン、いわゆる団地で起こっているはずだ。我が家の団地は百草団地、もぐさだんちと言うが、この百草団地には賃貸と分譲がある。私の実家は分譲で、自分の持ち物で、賃料はかからないものの、かなりの建物修繕費を毎月払っている。自分の持ち物なので、自分達で、共同で管理しなければならない。

 かつて駐車場を造設した際も、いろいろと大変だった。

 建て替えとなれば、仮の住まいも必要になるし、二回引っ越しをしなければならなくなるし、それ以前に建築費用が必要になるしで、そう簡単に実現できるものではないだろう。

 しかし、築年は1970年、昭和45年のこの団地、老朽化は否めない。

 外観は何とか頑張って景観を保っているものの、各部屋に張り巡らされた都市ガスの配管や、洗面所やトイレ内を通る配管などは、それなりに劣化してくるものだ。

 なかなか建て替え議論も難しいことが予想される中、私の両親は、この団地に住み続けている。

 この先どうなるのかなんて全く予想もつかない。親孝行もしなければとも思うけれど、それもなかなか叶わない現実。病気をして借金を申し込んでいる自分が情けなくなってしまった。