一か月

 義父が台所で倒れ、救急搬送されてから一か月ほどが経過している。

 手術は成功したものの、以前から患っていた腎臓の数値が悪いとかで透析治療がはじまり、それが原因かどうか、院内でコロナに感染したという所まではわかっているが、その後は何も連絡がない状態が続いている。

 カミサンは転院の連絡があるかもと、今週の半ばに連休を設定していたようだが、未だに何の連絡もないところをみると、もう少し時間がかかるようだ。

 かつて何度か入院した際には、メガネを持ってきてくれとか、あれやこれやの細かな依頼があったのだが、今回はそれもないので、よっぽどの状況であろうことが想像される。

 私とカミサンは結婚以来、ずっとこの義父と一緒に暮らしてきた。結婚当初はまだ働いていたが、やがて働けなくなり、何とか続けていた町内会の仕事もできなくなり、そして今は病院にいる。

 一緒に生活していれば、おのずからいろいろと接点が生じる。夜中でもトイレに起きる音がしたり、起きてお互いをけん制しながらいつ部屋を出てくるのかを察したり、食事の準備をするためにいつ台所にやって来るのか考えたり、相手が全く口をきかないので、面倒臭いことがたくさんあった。

 また、起きるとすぐにテレビを大音量でつけていたので、この音も私達にとってはかなりのストレスとなっていた。

 これらが全てなくなった現在、私達は結婚以来の平穏な日々を過ごしている。

 カミサンは自分で言っている。自分が病気になってしまったのは、彼に起因するストレスが原因だと。本当にストレスと言うのは恐ろしい。暴力や暴言なら目に見える、感じることができる物として捉えることができるが、このような人間関係によるストレスを立証するのは、今の仕組みではほぼ不可能だろう。

 しかし、実際に、彼と、彼の周りにいる親戚の存在が、彼女を苦しめていた、今でも苦しめているのは周知の事実なのだ。そして、今は存在しない彼女の母親、彼の妻も、一番近くで見ていたカミサンが言うには、同じような状態になっていたのだという。

 今回は絶対に、私が彼女を守らねばならないと強く思っている。今住ませてもらっているのは彼が建てた彼の家だが、数十年、いろいろとやってきたので、その恩もこの位でいいだろう。

 手続き関係は、ほぼ全てが、一人娘である彼女の所に来てしまう。彼女は、仕方がないんだけど、と前置きして、何で今までさんざん苦しめられてきたあいつの事を私がやらなきゃならないの?百歩譲ってやってあげるのは仕方ないとしても、どうして何のお礼もないの?と、こぼしている。しかし、透析が始まり、コロナになり、ほぼ自宅に戻る事が不可能となった今は、かなり彼女の気持ちも楽になったようだ。

 この先どうなって行くのかは神のみぞ知るところだが、これ以上、私達に迷惑をかけないで欲しいと心から思っている。