過去の栄光

 しつこいようで申し訳ないけれど、かつて私はキャンピングカー「カシータ」の中で暮らしていた。

 屋久島に移住し、ストレス社会で苦しむ人たちが密かに憧れるであろう田舎暮らしを実現し、ホームページを開設し、日々の暮らしをテキストにて発信していた。

 地元の新聞で取り上げられたり、雑誌の取材が相次いだり、最後にはNHKハイビジョン番組の出演オファーも来るなど、それなりに手応えはあった。

 各種取材には応じていたものの、一つだけ気になることがあった。

 それは、誰もが関心のあるであろう、お金のことである。

 こんな事を今さら言ったところでどうにもならないのだが、一部の人にとってはよくわからないことかもしれないし、私が体験してきた現実はこんなものなのだという事を知っていただく意味も込めて、今ここにもう一度書いてみようと思う。

 当時の私には、誰もが実現できないであろう暮らしをしているんだという自負があった。東京を離れての田舎暮らし、キャンピングカーで自分の土地で暮らす、何の伝もない漁港で漁師に声をかけ、とびうおの漁師になる、毎日お裾分けされる魚が食べきれないので、お裾分け的な意味でのネットお裾分けをはじめる、毎日考えていることをインターネットの日記に書く、興味のある人たちでteacupの掲示板が賑わう、知り合った女性と結婚を決めてしまう、などなど、話題には事欠かなかったし、他の方から見てもそこそこの価値を伝えることができていたと思う。

 取材されるのはやぶさかではなかったのだが、納得がいかなかったのは、その報酬だった。自分から額を切り出すのはなかなか気がひけるものだったということもあるし、会社によっては謝礼という形でほんの数千円程度しかいただけないと言われたこともあった。自分がやっている事の価値と、取材していただける予定の報酬額が釣り合わないことに、ジレンマを感じていたのだが、いくら言ったところで報酬は謝礼から数千円、良くて1万円程度がいいところで、それ以上いただける所は皆無だった。メディアとはそういう世界なのだろうと思っていた。

 何で今さらこんな事を書いているのかというと、昨日たまたま見たYouTubeがきっかけである。

 若い男女が軽自動車に乗って、日本中を旅するというチャンネルがあった。チャンネル登録者がそれなりにいて、再生回数も各動画で数十万を超えている。そしてその中で彼らがこのチャンネルでの報酬額を披露していたのだが、過去の半年で、一か月に換算して28万円ほどの報酬があったのだという。

 ただ、状況は少し違っていて、女性の方が若くして途中で病を発症してしまい、今は治療に専念しており、旅は一時中断という形になっている。

 人柄も本当に良さそうで、男性も女性も若いのにしっかりとしていて、とても好感が持てる。

 動画もきちんとテキストが入って編集されており、しっかりとしたクオリティーで出来上がっているのがわかる。

 彼らとかつての私を単純に比べることは決してできないとは思うのだが、一つだけいえることは、誰もが成し得ない事を行っている者が発信する情報には価値があるということだ。

 動画の撮影や編集、発信者の思いやコンテンツなど、彼らのチャンネルがここまでの人気となっているということには、様々な要素があるとは思う。

 それを差し置いても、かつての私が発信していたコンテンツが、1万円かそれ以下にしかならなかったというのは、とても悲しかったのである。

 今はこんな風にして、過去の栄光を振り返るというような、少々惨めっぽいテキストを綴る事でアクセスが集まらないものかと取り組んではいるものの、この方法で成果を上げるためには継続的な努力が必要で、まだまだその域には達することができていない。

 歳を取っても、基本的に考えることは変わっていない。

 誰もが成し得ていない駄文革命を起こしてやろうかと思っている。

 巷の情報では、100記事とか200記事とか書くと、何かいいことが起こるのだという。

 この、あてにならない情報を頼りに、これから死ぬまで書きけて行こうと思っている。